おそらくは半茶のblog

流行に乗り遅れてはいかん!とブログをはじめてみたおっさんです。

大浴場

朝までベッドに座ってテレビを眺めているわけにもいかないので、風呂に入ることにした。ビジネスホテルには珍しく大浴場があるということなので部屋を出てエレベーターに向かう。節電のためか廊下は薄暗く窓の外は暗闇で何も見えない。私の泊まっているのは14号室なのだがこのフロアには4号室はないので、実質13号室だな。

えんえんと同じような部屋の扉を行き過ぎるがなかなかエレベータにたどり着けない。フロントから上がってきたときにこんなに歩いたかな。エレベーターに乗り込み大浴場と表示されているボタンを押す。どうやら地下二階にあるらしい。狭いエレベーターで階数表示が変わっていくのを眺める。静かな中エレベーターのモーター音がやたら響く。扉が開くとフロアは暗闇。向こうでなにか動いているように見えた瞬間。エレベーターの照明も消える。パニックになり手探りでエレベーターのボタンを探す。めちゃくちゃにボタンを押しているとエレベーターの照明がつき、扉が開く。フロアは明るい。

何事もなかったかのように平静をよそおい、大浴場に向かう。脱衣場の貴重品ロッカーは満杯なので部屋の鍵を持ったまま風呂に向かう。身体を洗って湯船に入る。窓の外には上には星空と下には海が広がっている。海は暗くて沖を行きかう船の明かりしか見えない。大きく息をつきながらふと思う。ここは地下二階のはずだが、なぜ海が下に見えるんだ? 50以上あった貴重品ロッカーは満杯だったのに、何故風呂場には私しかいないのだ?

身体が温まったので露天風呂に移動してみることにした。風呂場の横の扉をあけると更に下の方に向かう石段が続いている。岩をくり貫いたような洞窟の中に続く階段を濡れた身体のまま降りてゆく。そろそろ身体が冷えだしたころ露天風呂に到着。寒さに震えながら湯船に飛び込む。ふきっさらしの湯船のせいか期待したほどお湯は熱くない。海に向かって突き出した岩場に掘られた湯船らしい。暗くて海はよく見えないが、沖をゆくタンカーだか漁船だかの灯りがゆっくりと移動しているのが見える。波の音が聞こえる。ぬるめのお湯にアゴまでつかりながらふと思う。あの船の灯りはなぜ上のほうに見えるのだ?波の音もなぜ下から聴こえてこない?

はやく風呂を出て部屋にもどったほうがよいような気がする。でも冷え切った身体はぬるいお湯ではなかなか温まらない。今戻ったら風邪をひいてしまうだろう。じっと我慢していると、露天風呂の向こうのきっと崖になっているところに手が見えたような気がした。海から崖を上ってやってきたものがいる。目を凝らすと何もないように見える。気のせいかと目をそらすと視界の端で白い手のようなものが今度は二本見えた。私が叫びだすと同時に灯りが消える。