おそらくは半茶のblog

流行に乗り遅れてはいかん!とブログをはじめてみたおっさんです。

勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪

勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪―ヘミングウェイ全短編〈2〉 (新潮文庫) (文庫)

冒頭の「嵐のあとで」が特に素晴らしい。
いきなり夜の酒場の喧嘩で首を絞められているという息苦しい場面から開始。嵐を挟んで大海原に一人という開放感。沈没船とその上を走る主人公の船の大きさの対比。沈没船から出てくる魚のイメージ。流砂に座礁した船のイメージ。割れない船窓。窓の向こうの死体。どんどん道具がなくなり流砂に飲み込まれる。ギリシャ人のイメージ。何も得られない主人公。そして、これらのことをなにも気にしない主人公。すごすぎる短編。

あと、酒場での老人とウエイターの対比した作品とか、戦闘直後のえげつない情景を淡々と描いた作品とか、頭がおかしくなったアメリカ兵が主人公とか、いい作品が揃っています。

最後の「キリマンジャロの雪」は短編史上に燦然と輝く傑作。切れ味の良いイメージ:キリマンジャロの山で死んでいるヒョウとか、あからさまに死を暗示するハイエナとか。死に瀕した主人公の妄想と現実の混濁とか。更に、最後死んでしまう話であるとか。

すごく私好みの話のはずなのだけれども、不思議なことに私のアンテナがちっとも反応しない。これが不思議で1ヶ月ほど理由を考えてみたのだが、さっぱりわからない。何故だろう。EDの人が女性の裸体を前にするとこんな気分になるのかな。

一冊を通しで読んでみて、非常に切れ味の鋭いナタという印象を受けた。切り方が大雑把すぎるんだけど、切れ味が良すぎて傑作になってしまうというアメリカン。才能がありすぎるのも考え物だなあ。