おそらくは半茶のblog

流行に乗り遅れてはいかん!とブログをはじめてみたおっさんです。

クリスマス・プレゼント ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫

リンカーン・ライム シリーズで知られるジェフリー・ディーヴァーの短編集。去年出たときに買っておいたような気もするのだが、積んであったので衝動買い。
短編集なのに560ページもある分厚い本で、センス無い。短編集が分厚くて悪いかと言われれば特に悪い理由は見当たらないので説明に困るのだが、説明に困るセンスの欠落が本編のそこここに散りばめられていて、なんというか真面目に一生懸命考えて書いているのはわかるのだが、そして決して悪くないのだが、物足りない。
各編の冒頭は、何故か断ち切られたもののようにいきなり始めるのでページを間違えたかと思ってうろたえる。そこらへんは面白い。

「ジョナサンがいない」夫がいなくなったことを考え続ける妻。短編小説で一捻りというのは捻った内に入らないと思いました。
「ウイークエンダー」コンビニ強盗に失敗した悪党の話。悪くないが二割ほど短くすればもっと引き締まるのではないか。
「サービス料として」精神科医とその患者。短編として省略すべきポイントを丁寧に書き漏らさないのは真面目というか融通が利かないというか。作者はそれを親切と勘違いしているように思われる。
「ビューティフル」ストーカーに悩まされている美人モデルの決心とは。だから、一捻りではなあ。


ここらへんで放り出しそうになるが、後半だんだん良くなってくる。


「身代わり」夫を殺そうとする妻。急に三捻りくらいになったのでびっくり。
「見解」高校時代にいじめられっこだった男は一人で暮らしていた。田舎町では変わり者と噂され。落ちが二つの要素を含んでいるのでどっちつかずだが、面白い。
「三角関係」一つの家に住む男女。男は女に新しい恋人ができたのではないかと疑い始める。きれいに決まっている。いいね。
「この世はすべて一つの舞台」シェイクスピア物。書いている方は気持ちいいんだろうなあと思いました。
「釣り日和」釣りに行った場所は殺人犯がうろついている場所だった。そこに新たに釣り人が現れる。これもきれいに決まっている。
ノクターンバイオリン強盗を取り逃がした警察官の話。主人公の気持ちが変わるポイントをきっちり描くことをしないところが惜しまれる。
「被包含犯罪」有罪が確実と思われた被告人を追及する検事。詳しくないので論評できないが、法廷物としてはありなのかなあ。「こんなこともあろうかと空間防護メッキを準備していてよかった」ということでデスラー総統が死んで終わりな宇宙戦艦ヤマトを思い出しました。
「宛名のないカード」妻の浮気という考えに囚われた夫がとった行動とは。終わり方がいいね。
「クリスマス・プレゼント」リンカーン・ライム物。行方不明4時間の大人を探す話。ライムシリーズはボーン・コレクターしか読んでないし(つまり気に入らなかった)、話としても短編の構成ではないような気もするが、最後がよかったので満足。
「超越した愛」愛する女性との間を女性の父に引き裂かれそうになった男。その男の話に耳を傾ける男の話。悪くはないが、今までの話から大体予想されたとおりの話でした。
「パインクリークの未亡人」アメリカ南部の未亡人が主人から引き継いだ会社を立て直すために。
「ひざまずく兵士」娘につきまとうストーカーにいらだった父は。やるせないラスト。


全体的に悪いといえる作品はないのだが、なにか優等生的というかピカリと光るものがないというかセンスが良いとは決して言えないとか、もうちょっと刈り込めばもっとよくなるのではないかとか思いましたが、でも橋にも棒にもかからないというほどひどくないし、平均以上ではあるというところがストレスがたまる短編集でした。