黒い玉 トーマス オーウェン 創元推理文庫
ベルギー幻想派の短編集。クラシックな味わいの怪奇篇。かなりお勧め。
- 雨の中の娘
ドッペルゲンガーが語り手というところでもうノックアウトされました。
- 公園
暗く危ない公園をわざと通行する娘。よくできた話である。よくできた話を志向せざるをえないというところがクラシックたる所以か。
- 亡霊への憐れみ
これも良く出来た怪談。恐いかどうかは別にして。
- 父と娘
娘に対するアンビバレンツな愛情の現実化。
- 売り別荘
やられた。ずるいぞ。
- 鉄格子の門
古典的なホラーのテーマを扱っているのだけれど、何のテーマが主題なのか錯綜しているところが現代的かも。
- バビロン博士の来訪
怪奇現象におびえた主人公は、通りすがりのバビロン博士に助けを求める。
- 黒い玉
いやあ、黒い玉が一体何なのかというのがわからないところが恐い。
- 蝋人形
恐い話に一風変った落ちがついている。こういうのも好きだなあ。
- 旅の男
因果応報の話なのだが、何を恐がればいいのか少々混乱する。
- 謎の情報提供者
妻の浮気の話を聞いた主人公は混乱する。結末は放り出したような感じを受けるが、悪意に基づいて行動する存在を前提とした話だから(婉曲な表現)、しょうがないのか。
- 染み
どうしてこうなったのか判然としないところはすばらしい。その結果が明白なところが惜しい。
- 変容
妻に迫害された夫の変容
- 鼠のカヴァール
悲しい錠前職人の話。
怪奇小説だから基本的には話にオチがある。(実は幽霊でした程度のオチであっても)。幻想小説には別の系譜もあって、たとえば犬の生活とか隠し部屋を査察してとか、奇怪な/奇矯な/味のある/妙な/イメージを提示して、終わり、オチはない話。不思議なことにその類の小説は大好きでそのイメージに痺れるのだが、何故か一冊読み終えることが出来ない。自分でも不思議。オチがある(オチがなくてもオチを意識していれば、たとえばオチがないのがオチとか)ものだと読み終えることが出来る。もともと落語少年で星新一好きというところが原因かも。
いうまでもなく、現実というものにはオチはない。オチがない奇怪なイメージとは、その意味では「もう一つの現実」の提示であろうか。そういう意味では彼等は現実に逃避しているともいえる。もう現実はおなか一杯であるという私の精神的未熟さの現れであろうか。