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おそらくは半茶のblog

流行に乗り遅れてはいかん!とブログをはじめてみたおっさんです。

八体さん

「新衛門殿、新衛門殿、お城で一番美しいのは、ど・な・た?」
「はい、義満殿、お城で一番美しいのは将軍様でございます」
お城の開かずの間では今宵も将軍様が新衛門さんを相手におのれの美貌を誇示しております。
日本一の権力を得た将軍様がその次に欲したのは若さと美貌でした。全国から集めた長寿に効く妙薬、不老の術を試し、夜な夜な家臣の新衛門に自分の若さ、美しさを褒め称えさせているのでした。

「うむ、苦しゅうない。余は満足じゃ」
「恐れながら申し上げます、将軍様。お城で一番美しいのは将軍様でございますが、日本で一番美しいのは安国寺境内の裏手に住む吾作の娘、おさよちゃんにてございます」
「うぬ、ゆるさん。ではどれほど美しいのか確かめにいくぞ」
おさよちゃんはそのころ、とんちで有名な八体さんと桃色遊戯をしておりました。
「そなたの肌は雪のように白く、唇は血のように赤く、髪は黒檀のように黒い」
「まあ、八体さんたら、こんどはどんなトンチかしら」
「その上、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い」
「八体さん、私は珈琲ではなくってよ」
「ははは。おさよちゃんにはかなわない…
『成敗!』
あわれ八体さんはいきなり後ろから現れた将軍様の刀の露となってしまいました。
「ひいぃ。お許しを……」
おさよちゃんは平伏して命乞いをしています。
「苦しゅうない、おもてをあげよ。なるほど、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い」
「いきなり下半身の一部に関する感想!」
「おじょうさん、この林檎をさしあげましょう。おいしい林檎ですよ」
「ありがたき幸せ」
おさよちゃんが林檎を一口かじると咽喉を押さえて倒れてしまいました。
「愚かなる平民なりや、この毒林檎をかじったからにはひとたまりもあるまい。安らかに極楽浄土とやらに赴くがよかろう。なむあみだぶなむあみだぶ」
将軍様がその場から立ち去ろうとすると、向こうの方から歌声が聞こえてきます。
「ハイホー、ハイホー、声を揃え~」
七人のドワーフが現れました。
「おや、女の子が倒れているぞ。そこのキラキラとした衣装を着ているおっさん、これはどういうことですか?」
「わしか?わしは通りすがりの林檎売りである。この少女がいきなり倒れたのじゃ。ワシはしらんぞ」
「ハイホー、ハイホー怪しいな」
「ハイホー、きっとこの少女を相手に淫行に及ぼうとしていたにちがいない」
「そうだな、きっとそうだ」
「いい歳して」
「有罪だ」
「ギルティー」
将軍様はあわてました。未成年者を相手に淫行などと噂を流されては将軍としての社会的地位が危うくなる。教科書にも載りづらくなる。
「違う違う、ワシはこの林檎を売り歩いていただけじゃ。おぬしらもこの林檎食べないか?おいしいぞ」
「お、うまそうな林檎だ」
「食べたいな」
「もらうとするか」
「するか」
「一つくれ」
将軍様はここぞとばかり言いました。
「よし、七人のドワーフ共よ、この屏風に描かれた林檎を食べてみせよ」
するとドワーフのリーダーが一歩進みだし鉢巻とたすき掛けをしながら将軍様に答えました。
「わかりました将軍様、では食べて見せますので林檎を屏風から追い出してください」
「と、とんち!」

将軍様は目をさましました。脂汗をびっしょりとかいています。将軍様の顔を新衛門殿と八体さんが覗き込んでいます。
「大丈夫ですか将軍様。あぶないところでした」
将軍様が各地からあつめた不老長寿の薬の中には毒が入ったものがあり、むやみに使用したため将軍様は倒れ昏睡状態に陥っていたのでした。先ほどの悪夢はその毒のせいで見たものでした。
「毒は、お顔からふき取りましたし、これから使用をひかえれば大丈夫ですよ」
「恥ずかしい夢であった」
「え?将軍様、どんな夢だったんですか?」
「いや、恥ずかしいから聞くでない。お前たちにこのこの恥ずかしさがわかってたまるか」
八体さんは言いました。
「そうですね、昔から言いますものね『この恥、判るべからず』なんちゃって」
「なるほどうまいことを言う。この小坊主を打ち首に処せ」
「そ、そんなあ」
「しかし、夢の中に出てきた七人のドワーフはいったいなんだったんだろうなあ」
将軍様、七人のドワーフとは私、八体が姿を変えて現れたに違いありません」
「なんじゃ、まだいたのか。おぬしの事とな。それはどういう事じゃ?」
「七人のドワーフは歌をうたっていたでしょう」
「ハイホー、ハイホーと歌っておったが」

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「それが証拠にございます」
「ふむ、なるほど。ワシの夢に入り込んでワシを悪夢から抜け出させてくれたということか」
「御意にございます」
「そうすると、おぬしはワシの命の恩人なのかもしれぬ」
「おそれいります」
「市中引き回しの上、獄門」
「そ、そんなぁ」