風に吹かれて パトリシア・ハイスミス 扶桑社ミステリー文庫
中期短編集だそうだ。
- 「頭のなかで小説を書いた男」
内容=タイトル。紙に書き写さないまま14冊の本を書き上げてそのまま墓に入った男を、あきらかにうらやましさを含んだ視線で描いている。
- 「ネットワーク」
都会の人間関係の善意のいやらしさ。に対する嫌悪と羨望を同時に描く。
- 「池」
池とそこに生える蔓草の圧倒的な存在感。それに対する恐怖と裏表の願望。
- 「一生背負っていくもの」
こういうどうしようもない状況を書くと本当にうまいねえ。
- 「風に吹かれて」
どうしてこんなことになってしまうのか、と同時にこうならざるを得なかったのだ。
- 「またあの夜明けがくる」
DQN夫婦の幼児虐待話。
- 「ウッドロウ・ウィルソンのネクタイ」
猟奇殺人をテーマとした蝋人形館での猟奇殺人。
- 「島へ」
船旅が不思議な結末を迎える。どうにでもとれる描写は解釈が難しいが、とにかく甘美。
- 「奇妙な自殺」
昔好きだった人のために一人殺した。その結果は、おもいもかけない波紋を及ぼす。と書くと普通のミステリみたいだな。奇想としかいいようのない、そしてやりきれない結末。
- 「ベビー・スプーン」
作者の「人間関係嫌い」を存分に表現した短編。
- 「割れたガラス」
やりきれない状況では、死は一つの救いであるとしか言いようがない作品。
- 「木を撃たないで」
SF。木とか自然が人類にふくしゅうするおはなし。
作者が人間嫌いであり、特に人間関係嫌いであり、さらに自然嫌いであることが遺憾なく表現された短編集。パトリシア・ハイスミスの短編集はなかなか見つからないのだが、まだまだ読みたいなあ。