日本怪奇小説傑作集 3 創元推理文庫
・「お守り」(山川方夫)
アイデンティティもの。オチが明解なのが惜しまれる。
・「出口」(吉行淳之介)
なんだかわからない状況が面白い。鰻。
・「くだんのはは」(小松左京)
戦時中の少年の話はうまいなあ。正体が明かされてからの畳み掛けるような展開も見事。怪談の名作。
・「山ン本五郎左衛門只今退散仕る」(稲垣足穂)
稲垣足穂が怪談を書いていたとは知らなかった(無知なだけ)。江戸時代の妖怪話かと思いきや、徹底的な物量攻勢で、なんだか怪談とは別のものと化していて圧倒される。
・「はだか川心中」(都筑道夫)
旅行先で何故かことごとく旅館から宿泊を断られる二人の男女。私には都筑道夫はスタイリッシュすぎてついていけないことが多いのだけれども、これは短さもあるのかいい感じの余韻が残る。
・「名笛秘曲」(荒木良一)
生きるためのグロテスクとエロティックさの対比があざやか。でもまあ、四十過ぎるとこういう死に方にあこがれる気持ちも薄れてしまったのだが。
・「楕円形の故郷」(三浦哲郎)
怪奇小説かなあ。最後にいきなり幻想小説になるので面食らった。高度成長期時代の感傷というものが今の時代に通じるのか心配。
・「門のある家」(星新一)
ずいぶん久しぶりに読んだが、家庭を持った今読むとすごく恐い。やはり小学生には精神的な毒が強いので星新一を読ませるべきでないと思う。いや、マジで。
・「箪笥」(半村良)
明らかに長編作家である半村良(イーデス・ハンソン)の長編は面白く読めるのだが何故か苦手。しかし彼が書く奇想短編は評価のつけようがないほどすばらしいと思う。ダンボール箱の話とか。この「箪笥」の話は、このアンソロジー中1,2を争うほど恐かった。どこがどう恐いのかわからないくらい恐い。
・「影人」(中井英夫)
起承転結の内、「転」と「結の半分」くらいしか書いていないので、統合が失調しているように感じられてじわりと恐い。謎解きはされるが「問題」が書いていないので、さらに恐い。
・「幽霊」(吉田健一)
こわくないけど甘美な怪奇話。
・「遠い座敷」(筒井康隆)
日本家屋の恐さって若い人には伝わるのだろうか。叔父の家が築百年を越した古い家で(裏庭に防空壕を掘ったあとがあったりする)ときどき泊まらせてもらったことがあるのですが、夜はめちゃ恐かった。普段あまり使っていない座敷の床の間とか、真っ暗で何も見えない渡り廊下を渡っていかなければいけない離れの便所とか。 だからこの作品はすごく実感を伴って恐かった。こんな座敷はありえないけどさ。
・「縄」(阿刀田高)
理に落ちすぎるところが不満といえば不満。阿刀田高のショートショートは、さてこれからどうするという作家の力の見せ所というところで終わるのがなあ。
・「海贄考」(赤江瀑)
夫婦で心中して一人生き残った夫は……。不注意な読者なので気がつかなかったのですが、作者あとがきを読んでぞっとしました。
・「ぼろんじ」(澁澤龍彦)
明治維新前後の怪奇な話。こわくないけど甘美な怪奇話。
・「風」(皆川博子)
この話いいなあ。語り手が敵視する相手の設定がいい。普通思いつかないよ。
・「大好きな姉」(高橋克彦)
故郷で帰りをじっと待つ存在ってどうしてこんなに恐いんだろう。